——「新時代法治推進2024年度10大事件」に選出
事件の概要:
執行申立人の四川某瑞化工股份有限公司(以下、「某瑞公司」という)と被執行人の山東某升化工股份有限公司(以下、「某升公司」という)の技術ノウハウ侵害紛争執行事件について、最高人民法院は2022年12月26日、某升公司に対して、某瑞公司の係争技術ノウハウを用いて生産したメラミン製品の販売の即刻停止、年産10万トンメラミンプロジェクト(第1期)における係争技術ノウハウに係る設備などの処分、および9,800万元の賠償を命じる判決を下した。
2023年2月6日、四川省成都市天府新区人民法院は、当該事件に対して立案執行(発効済みの判決、裁定に対して被執行人が義務を履行しない場合に、執行申立人による強制執行の申立てに基づいて法院が立件し、執行を決定する手続きをいう――訳注)を実施し、かつ某升公司の金銭支払い義務の履行を完了させた。しかし某升公司は発効済み判決により確定した設備の処分などの義務を一向に履行しようとせず、当該設備の撤去、処分に極めて高い専門性と一定の危険性が存在し、コストも莫大であり、さらには従業員の雇用、企業の経営、金融の安定、経済の発展に大きな影響をもたらすことから、執行手続きが行き詰る可能性がある。
そのため、最高人民法院は本件に対して「挂牌督弁」を実施し、事件と関係がある四川省、広東省、山東省の3省の9か所の法院が協力し、共同で推進するよう調整した。その後、四川省成都市中級人民法院は上級法院として本件の執行を担い、同院院長が裁判長を担当し、司法建議の発出、法による被執行人の法定代表者の召喚、撤去企業の公開入札などのさまざまな方法を通じて執行を強化するとともに、上級法院と政府関係部門は意思疎通と協力を強化し、当事者による執行に関する和解を促した。2024年1月28日、3階級の法院は協議を重ね、双方は執行に関する和解に同意して合意書を締結し、本件および広東省広州市中級人民法院の某専利権侵害事件の執行に関する問題の「包括的な」解決が実現し、また、別の2件の関連の訴訟事件の解決も促した。2024年8月5日、某瑞公司が事件終結申請書を提出し、和解合意書の履行完了を確認した。
選出理由:
本件は全国で執行対象が最も大きい知的財産権事件の1つである。本件は「交叉執行」業務メカニズムを活用して行為類執行事件(行動の実行を命じる強制執行事件)の解決のために、再現可能、普及可能な手本となる事件であり、新時代の人民法院が交叉執行を全面的に推進するとともに、人民法院内部で裁判と執行の機能と役割を明確に分離するための「審執分離改革」を推進し、「執行難の確実な解決」を後押しする典型的な代表事例である。
(出所:中華人民共和国最高人民法院)
※1挂牌督弁:(最高人民法院が)事件処理の公正性、効率性の観点から、一般公開などの方法を通じて重大、難解、複雑な事件の処理を重点的に監督、指導する方法。
※2交叉執行:事件処理の公正性と効率性の確保の観点から、複数の法院、同一法院の複数の部門が協力して同一事件に対する法執行を実施する方法。