「カルボマー」の営業秘密に関する権利侵害事件

2024-04-17

 事件の概要

 広州天某高新材料公司、九江天某高新材料公司は、洗い流さない手指消毒液の原料「カルボマー」を生産する技術的な営業秘密の権利者である。華某は2012~2013年、広州天某高新材料公司での在籍期間に、複数回、会社管理制度に違反してカルボマーの生産工程に関する技術資料をオフィスのPCから外部記憶媒体にコピーし、かつ、カルボマー製品の研究開発責任者としての自身の立場を利用して、広州天某高新材料公司の子会社である九江天某高新材料公司の生産現場主任である李某生にカルボマーの生産技術に関する設備図面を渡すよう強く要求した。華某は自身が不正に入手したカルボマーの生産工程に関する図面や文書を安徽紐某精細化工公司の法定代表者である劉某および朱某良、胡某春らに次々と送付するとともに、研究・改良を指示した。後に胡某春が設計図面を修正して関連設備を調達し、最終的に安徽紐某精細化工公司はカルボマー製品を生産して国内外に販売した。一審法院は、安徽紐某精細化工公司、華某、劉某、朱某良、胡某春は広州天某高新材料公司、九江天某高新材料公司の技術的な営業秘密を侵害したと判断し、侵害停止の判決を下すともに、賠償金額を権利侵害で得た利益の2.5倍に決定したうえで、安徽紐某精細化工公司に経済的損失3,000万元を賠償し、華某、劉某、朱某良、胡某春に一部を連帯して責任を負うよう命じた。これに対し、広州天某高新材料公司、安徽紐某精細化工公司らは控訴した。最高人民法院は二審で次のように判断した。一審法院の安徽紐某精細化工公司、華某、劉某、朱某良、胡某春の技術的な営業秘密の侵害を認める判決に不適当な点はない。しかし、権利侵害で得た利益額の認定においては、商品利益に対する被侵害営業秘密の寄与度が考慮されていないため、当該寄与度が50%と確定した状況下で、権利侵害で得た利益を600万元とする。安徽紐某精細化工公司自体が権利侵害を業とし、かつ同社の前法定代表者が係争営業秘密の侵害の刑事犯罪に関与したことにより刑罰を言い渡された後も、生産を継続して20余りの国および地域に販売しており、権利侵害の故意が明確にあり、権利侵害の情状が重大であることが明らかな点を考慮し、懲罰的損害賠償倍数を法定の最高倍数まで高める。また、劉某が安徽紐某精細化工公司の前法定代表者として権利侵害過程で果たした役割が明らかである点をふまえ、原判決を変更し、事件全体の賠償に対して連帯して責任を負うよう命じる。最高人民法院は最終的な破棄自判として、権利侵害で得た利益の5倍で賠償金額を算定すること、安徽紐某精細化工公司が広州天某高新材料公司、九江天某高新材料公司の経済的損失3,000万元および権利保護に関する合理的支出40万元を賠償すること、劉某、華某、朱某良、胡某春は前述の賠償金額に対して順に3,000万元、500万元、100万元、100万元の範囲内で連帯して責任を負うことを命じる判決を下した。

 典型事例の意義

 当該事件は、最高人民法院が法に基づき懲罰的損害賠償を適用した初の知的財産権侵害事件であり、また、権利侵害の情状の重大度と懲罰的損害賠償倍数の対応関係を追求し、権利者の効果的な保護、権利侵害行為の抑止・抑制、潜在的な権利侵害者への警告などにおける懲罰的損害賠償制度の役割を十分に発揮させた事件であり、知的財産権侵害の懲罰的損害賠償制度の徹底、知的財産権保護力の強化、民間企業の革新的発展の奨励、社会のイノベーション活力の刺激に対して積極的な意義をもつ。当該事件は最高人民法院の指導的事例として、最高人民法院が発表する「人民法院が審判機能・役割を十分に発揮して財産権および企業家の正当な権利利益を保護した典型事例(第3回)」「知的財産権侵害の民事事件に懲罰的損害賠償を適用した典型事例」に選出された。

 (出典:中華人民共和国最高人民法院新聞局)

 

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