事件の概要
2022年10月、集佳は商標モニタリングの実施時に第5、10類のタイの商標「 」の初期査定公告において、指定商品が「性行用潤滑剤、コンドーム」となっているが、国内の某有名携帯電話ゲーム周辺機器会社の商標を冒認出願した疑いがあることを発見した。当所がモニタリング状況を報告後、国内の権利者は当該冒認商標に対する異議申立てを決定した。
国内の権利者の依頼を受けて、当所は直ちに異議申立てに関する戦略を策定した。本件は異議申立人にはタイにおける先行商標権がなく、かつ冒認商標のカテゴリが異議申立人の主力事業および国内ですでに登録した先行商標の区分とは完全に異なることから、商品の関連性が比較的低い。したがって戦略上、当所はタイ《商標法》第8(9)条「商標の出願が公序良俗に反する場合には、登録してはならない」および第8(10)条「出願する商標が馳名商標と同一であり、又は類似することにより公衆に商品の混同を生じさせる可能性がある場合には、登録してはならない」を適用し、これを理由に異議申立てを提起することができる旨を進言した。
前述の異議申立てに関する条項について、当所は主に異議申立人とそのタイの代理業者が締結した代理販売契約および委任状、タイの電子商取引ウェブサイトでの販売に関する証拠、タイの展示会に出展した時の写真、タイの動画ウェブサイトでの宣伝に関する証拠などを先に使用した証拠として提出し、国内外の先行商標登録に関する証明、会社とブランドの紹介などを組み合わせ、異議申立人が商標の真の所有者であり、その商標には比較的高い知名度があることを主張した。また、出願した「 」商標は完全に異議申立人の商標の図形部分の「 」および文字部分の「 」「 」の組合せからなっており、偶然による出願ではない。被異議申立人はさらに他の中国の事業者の商標を冒認出願した事実もあり、その悪意が明白であることを示している。
2023年2月、被異議申立人が異議申立てに対する答弁書を提出し、審査官は審理を経て、タイ《商標法》第8(9)条に基づき、当所の異議申立てに関する主張を支持した。異議申立てに対する決定において、審査官は双方の商標が類似していることを認定した。また、異議申立人が提出した証拠資料により、異議申立人が2018年にすでに中国およびその他の国で係争商標を登録し、かつ使用していることから、係争商標の真の権利者であることを証明することができる。さらに被異議申立人はこれより遅い2022年に出願し、しかも答弁においてその商標の使用が異議申立人より早いことを証明するいかなる証拠も提出していない。以上より、審査官は被異議申立人が異議申立人の商標であることを知っている状況下で、悪意を持って異議申立人の商標を模倣し、かつ冒認出願したことを認定し、公序良俗に反することから、係争商標の登録を許可しないとの決定を下した。
弁護士の講評
本件は、タイの先行商標がない状況下で、公序良俗違反に関する条項を主張することにより、関連性が比較的低い商品について区分を越えた異議申立てに成功した典型事例である。