事件の概要
1807年、呉某材は1719年に上海市で設立し、眼鏡事業を付帯業務とする「澄明齋珠宝玉器舖」を、眼鏡事業を専門とする呉某材眼鏡店に変更した。1926年に名称を呉某材眼鏡公司に変更し、1998年10月にさらに上海某聯(集団)有限公司呉某材眼鏡公司(以下、「上海呉某材公司」という)に変更した。1947年、呉某材眼鏡公司南京分公司が設立登記を行った。しかし歴史的な経緯により、上海呉某材公司と南京呉某材眼鏡有限公司(以下、「南京呉某材公司」という)の間の資本関係はすでに解消されている。1989年より、某聯集団、上海呉某材公司が相次いで複数の「呉良材」の文字商標を登録し、長期にわたる使用を経て高い市場知名度を獲得し、かつ2004年に馳名商標(日本の著名商標に相当――訳注)に認定された。2015年、某聯集団、上海呉某材公司は、南京呉某材公司およびその支部組織、フランチャイジーが「呉良材」の文字を含む企業名および文字標識の登記・登録を行い、事業において使用し、かつ「南京呉某材眼鏡の前身は上海呉某材眼鏡公司が設立した南京分公司である」などと宣伝し、中国最大級の口コミサイト「大衆点評ネット」において共同購入を実施していることを発見した。某聯集団、上海呉某材公司は、南京呉某材公司の行為が商標権侵害および不正競争行為を構成すると判断し、法院に提訴し、権利侵害行為の停止、影響の除去、および損失と合理的費用の賠償を命じる判決を請求した。
判決結果
一審法院は、南京呉某材公司に対して、商標権侵害および不正競争行為を停止し、フランチャイズ経営においてライセンスを取得したフランチャイジーが「呉良材」を含む文字標章を使用することを直ちに停止し、その支部組織が江蘇省南京市以外の地域で「呉良材」の文字を含む企業名を登録、使用することを直ちに停止し、かつ影響を取り除き、経済的損失260万人民元を賠償するよう命じる判決を下した。南京呉某材公司は一審判決を不服として、控訴を提起した。
上海知的財産法院は過去の経緯、現状および公平性などの要素を総合的に考慮し、次のように判断した。まず、南京呉某材公司と歴史上の呉某材眼鏡公司の間には一定の歴史的背景があり、南京呉某材公司が「呉良材」の文字を含む企業名を登録し、使用を開始した時期は係争商標の登録時期より早いことから、不正競争行為を構成しない。しかし、南京呉某材公司と上海呉某材公司は歴史上の呉某材眼鏡公司との間に一定の歴史的背景があるものの、両者の間には資本関係は存在しない。上海呉某材公司の「呉良材」商標はすでに高い知名度があり、かつ馳名商標に認定されているが、南京呉某材公司はまだ全国的な知名度がない状況の下で、2004年から2015年の間にフランチャイズ加盟店の大規模な全国展開を実施し、かつ加盟店が「呉良材」の文字を含む企業名を使用し、さらに「百年老店(老舗)」であると対外的に宣伝し、上海呉某材公司との間に資本関係が存在しないという事実を隠蔽し、かつ自身が上海呉某材公司の南京支店であると詐称したが、上述の行為は主観的に見て、明らかに上海呉某材公司の社会的信用力を利用し、消費者を誤った方向に導こうとする意図があり、その企業名の使用範囲に対して適当な制限を設けなければ、市場における混同を防止する効果を実現することは困難であり、商標権者の利益を保護するにも不十分である。したがって、南京呉某材公司が「呉良材」の文字を含む企業名を登録する支部組織の範囲を南京地域に制限することには一定の合理性がある。次に、南京呉某材公司は商号の先使用権者としてその企業名を継続的に使用する権利を有するが、対応する主体の範囲に制限を設けなければならない、即ち、他者が「呉良材」の文字を含む企業名と標章を登録、使用することを認めてはならない。したがって南京呉某材公司のフランチャイジーが「呉良材」の文字を含む企業名と標章を使用する行為は、商標権侵害および不正競争行為を構成する。南京呉某材公司およびその支部組織、フランチャイジーが「呉良材」の文字を使用することも商標権侵害を構成する。さらに、南京呉某材公司が一方的かつ不完全な「百年老店」という謳い文句を通じて、隠蔽、詐称する方法により、関連公衆を誤った方向に導き、上海呉某材公司との間に資本関係が存在するとの誤解を生じさせ、悪意により上海呉某材公司の社会的信用力を利用する行為は、虚偽の宣伝行為に当たる。以上より、二審では控訴を棄却し、原判決を維持する判決が下された。
典型事例の意義
本件判決は、長年の懸案事項であった商標権の衝突の問題に対して比較的適切に対処する内容となっており、「老舗企業の称号」の使用の規範化、市場主体の誠実経営の促進とまた、市場における混同の防止、消費者の正当な権利・利益の保護のいずれにとっても一定の指導的意義を有する。