米国ICONヘルス&フィットネス社(以下、「ICON」という)の第3889268号登録商標の指定商品は「身体鍛錬器具」で、ルームランナー、エリプティカル・トレーナー等が含まれるが、ICONは、より一層良好なエクササイズ体験を消費者に提供するために、アップルストア(アプリ販売オンラインストア)上で同社ブランドのフィットネス器具および着用式スマートデバイスと併用する「IFIT」なる名称のフィットネス用アプリを発表した。
四川微迪数字技術有限公司(以下、「四川微迪」という)は第9類「コンピュータープログラム(ダウンロード可能なソフトウェア)」等を指定商品とする自社の第4869639号「」登録商標に基づき、上海浦東新区知識産権局に訴えを提起し、その登録商標専用権がICONの「iFit」携帯電話アプリによって侵害されていることを認定するよう請求した。
上海浦東新区版権紛争人民調停委員会の調整の下、ICONと四川微迪が和解達成を目的として商標譲渡覚書を締結した後、四川微迪は第4869639号「」登録商標をICON名義に移転した。
(2)主な実務と経験:
上海浦東新区知識産権局は訴えを受けた後、本件は訴えの被提起者ICONの携帯電話アプリが、訴え提起者の指定商品第9類「コンピュータープログラム(ダウンロード可能なソフトウェア)」の登録商標専用権を侵害しているのか否かという新しい問題が焦点となっており、事案が複雑で、難度が高く一定の争点が存在することを考慮し、直ちに訴えの被提起者ICONと提起者四川微迪に連絡し、双方間の紛争に調停を提案した。
2016年8月1日、人民調停員の于金龍による調停の下、ICONと四川微迪は次のとおり自由意思による合意に達した。
1.双方は「」商標(第4869639号登録商標および第17428227号出願商標)について譲渡の合意に達して合意書を締結すると同時に人民調停合意書に署名すること(沪浦版調[2016]年第2号)。
2.双方は早期に譲渡合意書に署名するとともに、共同で商標局に対し上記商標2件の譲渡申請を提出し、商標権の移転を完了すること。
ここに至って、上記商標権侵害紛争は上海浦東新区版権紛争人民調停委員会によって組織された調停の下、円満な解決を迎え、四川微迪はICONのアップルストア上の「IFIT」アプリに対する訴えを取り下げ、商標局ではすでに2件の商標の譲渡申請が受理されている。
(3)典型的意義:
本件は人民調停委員会が知財紛争の調停を進める中で重要な役割を果たした典型事例であり、知財紛争の多元的な解決方法を図る成功例となった。人民調停制度は争いの双方当事者に訴訟以外の解決ルートを提供し、低コスト、高効率で、穏便に双方間の利害衝突を解決した。