事件の概要
深セン市豊雅貿易有限公司(以下「深セン豊雅」と称する)は、自社の公式ウェブサイト、新浪微博などにおいて「The History of Whoo一后」「The History of Whoo后」「Whoo一后」「Whoo后」などの商標を使用し、第20類、第24類、第26類、第44類、第45類などの指定商品・サービスの広告を行い、当該ウェブサイトに掲載された関連画像が閲覧者に不快感を与えたことを理由に株式会社LG生活健康(以下「LG生活健康」とする)に苦情を寄せた。
LG生活健康は調査した結果、深セン豊雅が2016年5月より、第20類、第24類、第26類、第44類、第45類の指定商品・サービスにおいても「Whoo后」「Whoo一后」「」などの商標を出願し、その登録が承認されたことを判明した。
これに対して、LG生活健康は、集佳弁護士の分析と助言を受け、民事訴訟と無効審判の二本立てで、深セン豊雅が出願した関連商標の使用禁止と登録禁止を実現することを目指した。
LG生活健康は、民事訴訟において、深セン豊雅の関連訴訟行為は登録された著名商標の侵害にあたると主張した。本件は、広東省深セン市中級人民法院(以下「深セン中級法院」とする)が第一審を審理し、深セン豊雅が係争商標を出願登録する前に、LG生活健康の商標第4819575号「」および第9327294号「」が第3類化粧品の指定商品に使用されたというLG生活健康の主張を支持し、当該商標がすでに著名状態に至っていると認めた。さらに、この著名状態は、LG生活健康が深セン豊雅による権利侵害訴訟紛争の証拠を提出した2020年5月まで続き、さらにLG生活健康が提訴するまで継続した。
深セン中級法院による第一審の判決は次のとおり。深セン豊雅は直ちにLG生活健康が保有する登録商標第4819575号「」と第9327294号「 」の専用権の侵害行為を停止する。深セン豊雅は第一審判決の効力発生日から10日以内に、3日連続でその権利侵害行為を『南方都市報』『羊城晩報』ノド(見開きの折り目部分の余白)以外の紙面に、10日連続でその公式ウェブサイト、公式微博トップページの目立つ位置に声明を掲載し、影響を排除する。深セン豊雅は第一審判決の効力発生日から10日以内にLG生活健康に対して経済損失および権利行使のための合理的費用合計45万元を賠償する。
深セン豊雅が上述の第一審判決を不服とし、広東省高級人民法院(以下「広東省高級法院」とする)に控訴した。
第二審の概要と終審決定
深セン豊雅は控訴において次の4点を主張した。LG生活健康が保有する商標第4819575号「」と第9327294号「 」は著名商標に当たらない。深セン豊雅の行為は権利侵害に当たらない。仮に深セン豊雅が権利侵害したと判断されたとしても、第一審判決が決定した損害賠償額は明らかに過大である。深セン豊雅の行為がLG生活健康の市場での評判を低下させたという第一審判決は誤りである。
係争商標が著名商標に該当すると認定すべきか否かという問題について、第二審法院は、次の見解を示した。提出した証拠は、深セン豊雅が第20類などの指定商品について係争商標の登録を出願した2016年5月3日時点で、LG生活健康の権利化された商標がすでに関連公衆に高い人気を得ていることを確認でき、証拠と合わせて識別・判断すれば、係争商標が2016年5月3日以前にすでに第3類化粧品で関連公衆に知られており、知名度が高く、市場影響力があり、市場評判がよく、著名状態に達しており、著名商標として認識されるべきである。深セン豊雅が控訴して、係争商標が著名商標に該当しないと主張する各理由は成立しない。
権利侵害行為に該当するか否かという問題について、第二審法院は、次の見解を示した。訴えられた権利侵害行為は、係争著名商標と関連化粧品との間に形成された安定した対応関係を明らかに破壊し、係争著名商標の識別性を弱め、関連公衆における係争商標のイメージを低下させ、化粧品消費者の係争商標に対するアイデンティティを弱め、係争著名商標の市場の評判を低下させ、係争著名商標の登録人の正当な権利と利益を損なう。これは《商標法》第13条第3項に規定する「公衆を誤認させ、当該著名商標登録人の利益を損ねるおそれがある」事由に該当し、権利侵害を構成する。
第一審法院が決定した賠償額が過大であるか否かという問題について、第二審法院は次の見解を示した。深セン豊雅が実際の経営で利益を得なくても、本件に関わるLG生活健康の著名商標に与えた損害は客観的であり、係争著名商標の識別性の低下および係争著名商標の市場の評判の回復に関わる費用は深セン豊雅が負担すべきものである。第二審法院は、第一審が決定した賠償額は不当なものではないと判断した。
深セン豊雅が影響を排除する法的責任を負うか否かという問題について、第二審法院は次の見解を示した。深セン豊雅が第20類、第24類、第26類、第44類、第45類などの指定商品・サービスに侵害商標を無断で使用したことにより、係争著名商標の識別性が弱まり、係争著名商標の市場の評判が低下したため、これによる悪影響を公的に排除すべきである。LG生活健康が深セン豊雅に新聞、自社の公式ウェブサイトおよび公式微博で影響を排除するための声明を掲載することを要求した訴訟は、十分に理由と根拠があるものである。
典型事例の意義:
本件は、著名商標権者がその著名商標を薄め、醜悪化させた権利侵害行為に対して取り締まりを行い、権利行使に成功した典型的な事例である。
本件は、第一審、第二審を経ていずれも勝訴し、商標無効審判でも該当商標の無効化に成功した。知的財産権分野における専門性と豊富な経験を有する当チームの弁護士は、民事訴訟と行政訴訟の手続きを巧みに利用して該当商標の登録禁止と使用禁止を実現し、LG生活健康の知的財産権を強力に防御した。また、本件を通じて、LG生活健康が保有する商標第4819575号「」と第9327294号「 」は著名商標と認められ、LG生活健康の今後のありうる権利行使のための強固な基礎を築くことになるに違いない。