基本概要
洗濯機商品への登録を認可された本件登録商標「西門子」は、西門子股フン公司(シーメンス。以下、「西門子公司」という)と西門子(中国)有限公司(以下、「西門子中国公司」という)が専用権を有し、長期の使用を経て比較的高い知名度を有する。西門子公司と西門子中国公司の「西門子」という商号も一定の影響力を持つ。寧波奇帥電器有限公司(「奇帥公司」という)は、その生産販売する洗濯機製品、製品のパッケージおよび関連宣伝活動において「上海西門子電器有限公司」の標識を使用した。個人独資企業である昆山新維創電器有限公司(「新維創公司」という)は、前述の被疑侵害製品を販売した。西門子公司および西門子中国公司は、奇帥公司、新維創公司の前記行為が、その登録商標専用権を侵害し、かつ不正競争を構成したことを理由に本件訴訟を提起し、経済損失1億元および合理的支出16万3,000元の損害賠償を請求した。一審の江蘇省高級人民法院は、奇帥公司、新維創公司の行為は商標権侵害および不正競争を構成すると判断し、西門子公司および西門子中国公司の賠償請求を全額支持した。奇帥公司らはこれを不服として控訴した。
最高人民法院は二審で、奇帥公司が洗濯機本体、商品のパッケージおよび宣伝活動において「上海西門子電器有限公司」を使用し、西門子公司に対して商標権侵害および不正競争防止法第6条第2号、第4号に定める不正競争行為を構成すると判断した。奇帥公司が訴訟中に権利侵害行為に関連する財務資料の提供を拒否したことに鑑み、一審法院は本件に関するメディアの報道内容を売上総額の計算根拠とするとともに、売上総額の15分の1で被疑侵害製品の売上比率を計算し、賠償額を決定したことは不当ではない。入手可能な証拠では、権利侵害による利益および損失を証明することはできないが、奇帥公司が被疑侵害製品の生産、販売により得た利益は不正競争防止法第17条第4項に定める法定損害賠償の最高限度額を明らかに超えていると認定するのに十分であり、西門子公司および西門子中国公司の企業名は比較的高い知名度を有し、奇帥公司が有する明らかな主観的悪意、権利侵害規模、権利侵害の継続期間、および洗濯機製品の利益率などの要素を総合的に考慮すると、一審で決定した賠償額は不当ではない。最高人民法院は二審で、上告を棄却し原判決を支持する判決を下した。
典型事例の意義
本件は、模倣・混同行為を取り締まる典型事例である。本件において、人民法院は、他人に一定の影響を与える企業名称中の商号および登録商標と同一または類似する標識を商号として使用し、かつ経営活動に携わる行為が不正競争防止法第6条に定める不正競争行為を構成すると判断した。また、入手可能な証拠では権利侵害による利益および実際の損失の具体的な金額を証明できない場合に、人民法院は賠償金額を決定するために考慮する要素を明確化した。本件の裁判は、混同行為の認定、賠償金額の計算などの法律適用の問題について模範的な意義を有するものである。
(事件出典:最高人民法院[2023年人民法院の独占禁止及び不正競争防止に関する典型事例])