北京市集佳法律事務所が代理人を務めた特許権者「東莞市昇微機電設備科技有限公司」(以下、「昇微公司」という)の特許不服審判行政訴訟二審事件について、先日、最高人民法院(2023)最高法知行終468号判決書を受領した。この判決書により北京知的財産権法院(2022)京73行初9357号行政判決、国家知識産権局第298040号不服審判請求審決が取り消され、昇微公司の革新的技術が特許としての保護を受け、その製品の市場における競争優位性が一層確実なものとなった。
事件の概要
本件審決は国家知識産権局が、発明の名称を「電子冷却結露防止システム及びその結露防止方法」とする第201711290069.2 号特許出願(以下、「係争出願」という)について請求がなされた不服審判に対して下した審決である。当該出願の内容は主に次のとおりである。温湿度センサを通じて試験槽の内部温度と湿度をリアルタイムで取得し、温度センサを通じて電子冷却素子の温度をリアルタイムで測定する。メインコントローラに送られた温湿度センサが収集した試験槽内の温度と湿度により、試験槽内の露点値を計算し、露点値が設定値を上回った場合に、冷却素子制御ユニットが作動して電子冷却素子の作動数または出力を下げることにより、冷却素子の結露防止措置および冗長制御、さらに故障時の停止回避を実現する。
当該審決によると、請求項1と証拠1の技術的特徴の相違点は次のとおりである。(1)本出願は電子冷却結露防止システムであり、冷却には電子冷却素子を用い、前記電子冷却素子は少なくとも一組を備え、各組の電子冷却素子はそれぞれ試験槽の壁面に設置され、かつその一方の端部から試験槽の外部に放熱し、もう一方の端部は試験槽の壁面または試験槽内に固定される。および冷却素子制御ユニットの具体的な制御方法を含む。(2)メインコントローラと接続された温度センサは、電子冷却素子の温度の測定に用いる。前記温度センサは各組の電子冷却素子の試験槽の内面部位、またはすべての電子冷却素子共通の試験槽の内面部位もしくは壁面上、または電子冷却素子の試験槽内の放熱フィン上に設置される。技術的特徴の相違点が実際に解決する技術的問題とは冷却システムの温度制御をどのように実現するかという点である。相違点(1)について、証拠2では多種類の循環媒体に適用可能な冷却システムを開示し、かつ該システムがコントローラ9の制御の下で複数の半導体冷却装置の独立制御を実現し、異なる冷却量を提供することができる、すなわち温度制御の正確性と調節可能性を保証することを開示している。上述の開示されている特徴は、引用文献2における役割が本出願におけるその役割と同じであり、引用文献1を用いて正確な温度制御を実現するための示唆を与えることができる。相違点(2)について、証拠1が開示された前提の下で、本分野の技術者は必要に応じて選択可能である。したがって、証拠1に基づき証拠2と技術常識を組み合わせると、請求項1は進歩性を欠く。一審法院と本件審決は概ね同じ見解である。
二審において、集佳は係争特許と引用文献の方案について、技術方案の本質の観点から詳細に説明するとともに、技術的課題の再認定の根拠と事実について重点的に論述し、技術的課題に対する再認定に基づき、証拠2はこの技術的課題を解決するための示唆を与えておらず、証拠1に基づいたとしてもなお改良の動機が存在しないとした。二審裁判官は技術的事実に対して十分に理解した上で、昇微公司の主張を支持し、本件審決と一審判決を取り消す旨の判決を下した。
本件のポイント
本件における双方間の主な争点は進歩性の認定に関する問題であり、相違点が実際に解決する技術的課題、先行技術に基づく改良の動機や組合せの示唆などが含まれる。しかし注意すべきは、本件にはさらに合議廷が注目したもう一つの問題が存在するという点である。本件に係る出願の技術方案は同時に他国でもパテントファミリーとして出願されており、本件の一審および二審の期間中に、欧州、米国、日本、韓国、ロシア、インドネシアなどの国で相次いで権利を付与されたが、中国のみ出願が拒絶されている。一審法院の見解によると、特許には地域性があり、外国での権利付与は中国においてもそれが当然であることを意味するものではない。このため、昇微公司は控訴過程において証拠を提出し、かつ本件に係る引用文献が複数国の審査でも用いられており、かつ韓国で権限が付与された特許に引用された先行技術は本件と同一であり、各国の進歩性の審査基準には違いがあるものの、全般的には自明性の問題を審査する点で共通しており、しかも一部の特徴は先行技術に基づき開示されているのではなく、技術常識に基づき進歩性が否定されていることから、本件の進歩性は審査基準の妥当性に疑義があると主張した。さらに、閉廷後に裁判官の参考資料として、韓国、日本、米国において本件と同様の引用文献を用いた審査資料および審査意見を分析し、提出した。二審判決において、昇微公司が提出したこれらの資料および今回の訴訟により表面化した国内外の権利付与基準の相違に関する問題について明確な判断は示されなかったが、この状況が裁判官の心証に影響を与えたと考えらえる。