このほど、集佳律師事務所が代理人を務める原告の美巣集団股份公司(以下「美巣公司」)が被告の北京秀潔新興建材有限責任公司(以下「秀潔公司」)らを訴えた、商標権侵害訴訟事件で、北京知識産権法院は一審判決を下し、被告の秀潔公司に対し、同社が製造、販売するコンクリート打継目処理剤商品に「墻錮」の文字を使用することを直ちに停止し、原告の美巣公司に経済損失および合理的支出1,000万元を賠償するよう命じた。これは、北京知識産権法院の設立以来、商標権侵害の事件に下された賠償金では過去最高額であり、同事件は、知的財産権の典型判例として、北京知識産権法院の公式公共プラットフォームで公開されている。
【事件要約】
美巣公司は、第3303708号、第4882697号の商標権者であり、商標「墻錮」を「工業用粘着剤、工業用ゲル」などの商品に使用している。当該商標は美巣公司の商業宣伝と使用を経て、関連公衆の間ではすでに高い知名度を有している。秀潔公司は、自社が製造、販売する同類の商品に「秀潔墻錮」、「易康墻錮」、「興潮墻錮」などの文字を目立つように使用している。美巣公司は商標権侵害を理由として、秀潔会社を北京知識産権法院に提訴し、秀潔公司らに権利侵害行為を停止し、影響を除去するとともに、経済損失および権利侵害の制止に要した合理的支出1,000万元を賠償するよう命じる判決を法院に求めた。
【判決結果】
「墻錮」の文字の使用に関して、北京知識産権法院は被告が原告である美巣公司の商標権を侵害していると認定した。
本案の中で、秀潔公司は、「墻錮」はすでに一般に認められた普通名称に該当し、権利侵害で訴えられた行為は商標としての使用ではない正当な使用であると主張した。当事者双方が提出した証拠に基づき、関連公衆の「墻錮」に対する認知では、それがコンクリート打継目処理剤商品において一般に認められた普通名称であることを証明できず、しかも秀潔公司が上述の文字を外装容器目立たせて使用し、文字のサイズも大きいことから、商標としての使用であることは明らかだとして、秀潔公司の当該行為は原告の美巣公司の商標権を侵害していると認定した。
賠償金額に関しては、北京知識産権法院は法により原告である美巣公司の請求額全額を認め、秀潔公司に対し美巣公司に1,000万元を賠償するよう命じる判決を下した。
美巣公司は、秀潔公司が権利侵害により獲得した利益に基づき損害賠償額を決定すべきであると主張し、公開された情報を通じて得た秀潔公司の経営規模、侵害品の販売利益、生産量、販売時期、販売店舗数、販売地域など、侵害品の取扱いに関する証拠を可能な限り提供した。販売利益について、美巣公司は、侵害品の販売単価の価格差、粗利率に基づき情状を斟酌して決定すべきであると主張した。また販売数については、侵害品の確実な販売データは存在しないものの、「秀潔墻錮」の単独の月間生産量が1万トンに達すると判断し、さらに秀潔公司は「秀潔」、「易康」ブランドを対象に独立した販売部門を設置しており、その経営規模、販売店舗数、販売地域などの要素を加味すると、「秀潔墻錮」、「易康墻錮」、「興潮墻錮」の3種類の侵害品の合計の月間販売数を、情状を斟酌した上で1万トンとすることは理に適っていると主張した。
秀潔公司は法院の審理の過程において、美巣公司が提出した上述の証拠の内容の客観性に異議を唱えたが、法院は秀潔公司に対して相応の法的責任を説明し、会社の実際の経営状況を示す関連証拠を提出するよう命じたが、秀潔公司は、経営活動に関する帳簿、資料の提出を拒否した。これにより、《商標法》第63条第2項に基づき、北京知識産権法院は、美巣公司の請求額全額を認め、秀潔公司に対し、美巣公司に1,000万元を賠償するよう命じる判決を下した。
【本案の注目点】
本案において秀潔公司は、美巣集団が権利を主張する「墻錮」は普通名称であり、顕著性を有さないと主張した。これにより、秀潔公司は訴訟手続きにおいて、正当な使用であるとの抗弁を行った。北京知識産権法院は、一般に認められた普通名称は、全国の関連公衆によって、ある一つの名称が一つの商品を具体的に指すことができると概ね認識されていることを前提とすべきであり、他者の登録商標を商品名称として目立たせて使用することもまた商標としての使用に該当するものであり、秀潔公司は、「墻錮」を目立たせて使用し、美巣公司の商標権を侵害したと判断した。
北京知識産権法院はさらに、マーケティング戦略あるいはその他の考慮要素にかかわらず、いかなる商業主体であっても、宣伝・普及活動において使用する言語の表現は正しくなければならず、使用する商業データは客観的で真実のものでなければならず、信義誠実の原則に違反して使用した宣伝内容により得た不当な利益については、権利侵害責任の判定、とりわけ権利侵害に関する損害賠償金額の判定においては自ら相応の法的責任を負わなければならない。本案において、美巣公司は相応の立証責任を十分に果たしているが、秀潔公司は正当な理由なく侵害品に関する重要データの証拠の提供を拒否し、かつ調査を通じ、美巣公司が権利侵害の損害賠償を主張する考慮要素と調査により明らかになった本案の関連事実が相互に裏付けられた。したがって、秀潔公司は、関連証拠の提出を拒否した法的責任を自ら負わなければならない。
本案の審理過程において、合議体は、民事訴訟の証拠規則を適切に使用し、当事者の立証責任を合理的に分配し、同類事件の審理に参考となる事例を提供した。また、本案で原告の美巣公司の請求額全額が認められ、北京知識産権法院設立後の商標権侵害事件に関する賠償金額における最高額となった。