深セン市大疆創新科技有限公司(略称DJI)は、2006年に設立された世界をリードする無人飛行機制御システムおよび無人飛行機ソリューションの研究開発および製造業者である。最初の商用飛行制御システムから着手し、段階的にACEシリーズヘリコプター飛行制御システム、マルチコプター飛行制御システム、筋斗雲シリーズプロクラスプラットフォームS1000、S900、マルチコプター一体型Phantom、 Ronin三軸手持雲台システムなどの製品を研究開発し発表していった。国内外の多くの技術の空白を埋めただけでなく、世界の同業界のリーディングカンパニーとなり、DJIは「飛行映像システム」を核心的な発展方向とし、多階層の空中カメラプランを通じて、人類に全く新しい飛行感覚体験をもたらし、飛行を一般大衆の心の赴くままに動かせるようにした。
2015年末から2016年初めにかけて、原告である広州市華科爾科技有限公司(WALKERA)は突然、広州知識産権法院に大疆創新公司の2件の専利侵害を告訴し、次のように述べた。大疆創新が発売した精霊3(Phanotom3)は発明の名称を「模型飛行器」とする第ZL200720060190.1号および発明の名称を「状態監視機能を有する遠隔操作飛行機」とする第ZL201220100061.1号の2件の原告の実用新案権を侵害している疑いがあり、220万元の賠償金を請求する。
大疆創新公司は原告の専利の状況を詳細に研究し、北京市集佳弁護士事務所に原告の上述の2件の専利の無効反訴請求を依頼した。集佳弁護士事務所は李洪江、武樹辰、範相玉、戈暁美からなる権益保護チームを編成して、原告の専利の保護範囲を綿密に分析し、この2件の専利が無効とされる可能性が比較的高いと判断し、これにより先行技術の検索作業を実施した。
一.第ZL200720060190.1号専利
200720060190.1専利は「模型飛行器」の保護を求めており、その独立請求項の保護範囲は次のとおりである: 1. 主体フレーム、主体フレーム頂部に連結するヘッドカバー、主体フレーム下部と連結し該主体フレームを支えるのに用いる脚、前記主体フレーム上に設置する動力コンポーネントおよび外部制御信号を受信できる制御器を含み、前記主体フレームの四つの対応する角がそれぞれ固定されて十字状の四本軸を形成し、それぞれの軸に一つの動力コンポーネントが固定されていることを特徴とする模型飛行器。
検索の結果、集佳権益保護チームは、飛行器、特に四軸飛行器が開示されているドイツの特許文献(DE202006013909)の先行技術文書を取得した。該四軸飛行器は、好ましくは十字型構造であり、四つの角にあるプロペラを含む、対応する駆動ユニットを配する。一つの処理器がサポートする電子機器が操縦士の制御信号に従ってエンジンの制御を担い、複数の縦方向と横方向に張った緩衝器が、電子装置が衝撃を受けないように保護している。例えば、材質は炭素繊維強化サンドウィッチ複合材料とし、十字型のジブとして設置し、コネクタとネジを組み合わせて一つに接合する。着陸装置はばね鋼線構造を使用できる。
これに基づいて進歩性の無効理由を提出し、専利復審委員会は2016年9月22日に無効の審決を下して、大疆創新公司の観点を支持し、さらに次のように認定した。原告が提出したドイツの特許DE202006013909、分類番号B64C27/08は専門飛行器であるが、本専利分類番号A63H27/00は玩具の模型飛行器であり、技術分野の違いによりその他の構造に実質的な違いが存在する。これにより合議体は、本専利の出願日までに、模型飛行器は多くが民用、公用または軍用を原型として開発されるまで発展を遂げている。特に玩具遠隔操縦飛行機分野では、玩具遠隔操縦飛行器分野と小型無人遠隔操縦飛行器分野の違いを区分するのは困難となっており、模型飛行器の構造を改良する必要があるとき、当業者であれば技術が比較的成熟している無人飛行機の分野から示唆を与えられ、先行技術の無人飛行機に開示された技術的特徴を参考に模型飛行器を改良することは容易に思いつくことである。また、当業者にとって、小型遠隔操縦無人飛行機の構造を玩具模型飛行器に応用することに技術的な障害は存在しない。これにより、当業者がDE202006013909の先行技術で開示された四軸飛行器を発明の起点として玩具模型飛行器を設計することは自明である。
専利復審委員会は最終的に、本案件に係る、発明の名称を「模型飛行器」とする第ZL200720060190.1号の専利の全部無効の審決を下した。
二.第ZL201220100061.1号専利
第ZL201220100061.1号特許請求は「遠隔操縦飛行機」の保護を求めており、その独立請求項の保護範囲は次の通りである:1、信号送受信機飛行機端末(10)を含む遠隔操縦飛行機(1)と信号送受信機遠隔操縦端末(20)を含むリモコン(2)からなり、遠隔操縦飛行機(1)上に電池(11)からエネルギーが提供されるモーター(12)を設置し、遠隔操縦飛行機(1)上にセンサーコンポーネント(100)を設置し、センサーコンポーネント(100)が遠隔操縦飛行機(1)の状態情報を信号送受信機飛行機端末(10)に送信し、さらに信号送受信機遠隔操縦端末(20)に送信することを特徴とする状態監視機能を有する遠隔操縦飛行機。
集佳の弁護士チームは、先行技術の中国専利文献CN101866180Aは、航空機搭載システムと地面システムを含み、航空機搭載システムは無人飛行機外部に設置したマイクロカメラとGPS受信機、無人飛行機内部に設置したGPS信号収集ユニット、電源監視ユニット、重畳ユニット及びマイクロ波送信ユニットを含み、地面システムはマイクロ波受信ユニット、ビデオディスプレイとリモコンを含む飛行制御システムに関することを発見した。本発明の航空機搭載システムは飛行パラメーター、電源情報などの情報をビデオ信号内に重畳し、地面システムのビデオディスプレイに送信する。上述リモコンは前記重畳ユニットの重畳機能を起動または停止するのに用いることができる。これに基づき進歩性無効理由を提出した。
原告は「本専利の分類番号A63H27/00からわかるように、本専利は玩具飛行機分野に関し、CN101866180Aの開示する無人飛行機は工事または軍事方面に用いる専門機器であり、分野が異なる。本専利のリモコンは肌身離さず携帯でき、随時制御でき、同時に操縦者がリアルタイム調整しやすいように玩具飛行機の状態情報をリモコンに送信できる」と抗弁した。これに対して、合議体は次のように認定した。本専利出願日までに、遠隔操縦飛行機はすでに多くが民用、公用または軍用を原型として開発されるまで発展している。特に玩具遠隔操縦飛行機分野では、玩具遠隔操縦飛行器分野と小型無人遠隔操縦飛行器分野の違いを区分するのは難しくなっており、遠隔操縦飛行機の制御システムを改良する必要があるとき、当業者であれば制御技術の発展が比較的先行している無人飛行機分野からヒントを見つけ、先行技術の中の無人飛行機開示の技術特徴を参考に遠隔操縦飛行機を改良することは容易に思いつくことである。また、当業者にとって、無人飛行機の制御システムを遠隔操縦飛行機に応用することに技術的な障害は存在しない。これにより、当業者がCN101866180Aの先行技術が開示する無人飛行機制御システムを発明の起点として状態監視機能を有する遠隔操縦飛行機を設計することは自明なことである。
最終的に専利復審委員会は当案件に関係する201220100061.1専利の「状態監視機能を有する遠隔操縦飛行機」を名称とする全請求項の無効を宣告した。
三.典型的意義
本案件では、大疆創新公司はコンシューマークラスの小型無人飛行機の生産業者であり、原告は出願して玩具無人飛行機分野の対応する専利取得できなかったが、本案件中に専利復審委員会は出願者の提出した先行技術の証拠を踏まえて、最終的に玩具遠隔操縦飛行器と小型無人遠隔操縦飛行器の二つの技術分野の特徴と関係を整理して明確化し、今後無人飛行機分野の専利の保護範囲の定義に重要な指針を定めた。