「微信」商標異議再審行政事件

2017-06-12

   2017年4月20日に、北京市高級人民法院は2016年司法保護十大典型事例を公表し、集佳が代理業務を担当した「微信」商標異議再審行政事件、温瑞安氏任侠小説改変権および不正競争紛争事件がともに入選した。

   北京市高級人民法院が毎年公表する十大典型事例はいずれも典型的意義が比較的高く、社会的影響も比較的大きいため、注目を集めており、集佳が代理業務を担当した事件は多くの事件の中で抜きん出ており、光栄にも2件が入選することができたことは、集佳の専門的素養および職業レベルを十分に示すものであり、事件の勝訴により、各自の分野における類似事件において参考に資する権利維持の模範を示した。

   事例の詳細を以下のとおり紹介する。

   担当弁護士:候玉静弁護士、張亜洲弁護士

   事件の概要:

   2010年11月12日に、被異議商標である第8840949号「微信」商標について創博亜太科技(山東)有限公司が登録出願を提出し、第38類情報伝送、電話業務などサービス上での使用を指定した。同商標は2011年8月27日に予備審査に合格し、公告が掲載された。公告期間に、自然人の張新河氏は被異議商標が「商標法」第10条第1項第(八)号に違反し、「その他マイナスの影響」がある、また「商標法」第11条に違反し、顕著性に欠けるとの2つの理由により、商標局に異議を申し立てた。

   2013年3月19日に、商標局は「(2013)商標異字第07726号」の「『微信』商標異議裁定書」を下し、被異議商標は必ずしも顕著性に欠けているわけではないが、被異議申立人が「微信」商標登録を出願し、第38類「情報伝送、電話業務」などサービス項目上での使用を指定したことにより、容易に消費者の誤認を発生させ、マイナスの社会的影響をもたらすと判断し、被異議商標の登録不許可の裁定を下した。2014年10月22日に、商標評審委員会は「商評字【2014】第67139号」の「第8840949号『微信』商標異議再審裁定書」を交付し、被異議商標は必ずしも顕著性に欠けているわけではないが、「その他マイナスの影響」があると判断し、被異議商標の登録不許可の裁定を下した。裁定理由は次のとおりである。第1に、「その他マイナスの影響」条項の立法目的である。改正後の「商標法」第10条第1項第(八)号「その他マイナスの影響」の規定の立法目的は、商標出願人および使用者の利益と社会公共の利益および公共の秩序のバランスをとり、商標出願および使用行為による社会公共の利益および公共の秩序に対する消極的、マイナスの影響の発生を防止することにあり、某標識にその他マイナスの影響があるか否かを判断する場合のポイントは行為者の客観的な法律効果にあり、その行為時の主観的状態にはない。第2に、社会公共の利益および公共の秩序を損ねるものであるか否かは、商標出願時の事実状態を考慮しなければならないだけでなく、決定した日を時間的基点として新たに形成された公共の利益および公共の秩序を損ねるものであるか否かを判断しなければならない。被異議商標の登録出願時に、騰訊公司(テンセント社)の「微信(WeChat)」ソフトウェアはまだ正式に対外的に発表されていなかったが、2013年7月時点の騰訊公司の「微信(WeChat)」登録利用者数はすでに4億名に達し、多くの地域の政府機関、法院、学校、銀行などが微信(WeChat)による公共サービスの提供を開始したことにより、関連の公衆はすでに「微信」を騰訊公司と緊密に関連付けている。被異議商標の登録を許可した場合に、微信(WeChat)の登録利用者および多くの公共サービスである微信(WeChat)の利用者に極めて大きな不便ないしは損失をもたらすとともに、出願人が提供する「微信」サービスの性質および内容について彼らに誤認させる可能性があり、それにより社会公共の利益および公共の秩序に消極的、マイナスの影響を及ぼす可能性がある。

   2015年3月11日に、北京知的財産法院は公開で開廷し、第8840949号「微信」商標異議行政訴訟を審理し、同法廷において、商標法第10条第1項第(八)号の「その他マイナスの影響」条項を適用した商標評審委員会による被異議商標の「微信」の登録不許可の裁定を維持する判決を下した。

   2016年4月20日に、北京市高級人民法院は判決の中で、被異議商標は中国語の「微信」の2文字で構成され、「微」には少ない、小さいなどの意味があり、「信」と組み合わせ、第38類通信などのサービス上で使用することにより、関連の公衆はそれを電子メール、携帯ショートメールなどのよく見られる通信方式に比べ小さく、便利なコミュニケーション方式であると容易に理解し、上述のサービスの機能、用途またはその他特徴に関する直接的な描写は、関連の公衆がサービスの提供元を区分するための商標の識別および取扱いを困難にさせることより、顕著性に欠け、「商標法」第11条の規定に違反すると認定した。被異議商標に「その他マイナスの影響」があるか否かについて、北京市高級人民法院は、現在の証拠では被異議商標の「微信」自身またはその構成要素が中国の政治、経済、文化などの社会公共の利益または公共の秩序にマイナスの影響を及ぼす可能性があることを証明するには不十分であり、騰訊公司の「微信(WeChat)」インスタントメッセージソフトウェアがすでに政府機関を含む一般大衆に大量に使用されており、被異議商標の出願行為と前述の事実に「ズレ」が存在するとしても、それはプログラムの名称または商標標識を如何にして確定するかという問題に係るだけであり、そのプログラムの正常な使用に影響を及ぼすものではなく、改名したとしても多くの一般大衆の利益および公共の秩序を損ねることはないことより、被異議商標の登録出願行為は社会公共の利益および公共の秩序に関係がなく、被異議商標は「商標法」第10条第1項第(八)号の規定に違反しないと認定した。

   2016年12月27日に、最高人民法院は再審行政裁定書を交付し、創博亜太の再審申立を棄却した。最高人民法院は再審の裁定の中で、「その他マイナスの影響」条項の適用について詳しく述べず、その裁決の重点が手続上で第2審法院が顕著性条項に視点を変えて、商標評審委員会の裁定を維持したこと、つまり「全面的審査」原則に錯誤が存在するか否か、および被異議商標に顕著性が欠けているか否かにあるとした。最高人民法院の見解は次のとおりである。第1審判決では「その他マイナスの影響」条項のみが認定されたが、商標評審委員会の裁定では顕著性条項についても認定されており、第2審判決で原第三者の意見に基づいて、被異議商標が顕著性に欠けているか否かについて認定されたことは、行政訴訟法第87条の「全面的審査」に関する規定に適合する。

   典型事例の意義

   本件では手続上で司法の「全面」審査の原則が確定した、つまり法院は商標評審委員会の裁定に対する司法審査の実施時に、行政訴訟を提起した一方の当事者が提出した理由を審査するだけでなく、商標評審委員会が裁決の根拠とする、相手方の当事者が行政訴訟を提起しなかったその他理由も合わせて審査しなければならず、このような審判の考え方は効率をより重視し、司法資源を節約するものであり、実体上の紛争を解決するのにより有益である。

   本件では実体上で「商標法」第10条第1項第(八)号の「その他マイナスの影響」条項の適用範囲が再度明確に縮小されており、「その他マイナスの影響」がある標識は商標標識自身およびその構成要素に限定され、関連の標識が実際の使用において発生する可能性のある影響は考慮されないようになった。このような考え方は司法実務においてすでに採用されている「その他マイナスの影響」条項を適度に緩やかに、柔軟に適用するこれまでの方法とは異なり、注目に値する。

 

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