事件の概要:
テンセント社のアプリ「微信」は現在主流のインスタントメッセージ系モバイルアプリで、圧倒的多数のモバイルユーザーが熟知するモバイルアプリでもある。「微信」とこれに対応する商標「Wechat」は需要者の中で極めて高い知名度を有し、極めて高いブランド価値を有する。
微信食品公司は2015年4月14日、「微信」を企業の屋号として登記し、小小樹公司と共同で、標識「微信食品Wechat Food」を使用して複数の関連飲食店、オフラインスーパーマーケット、オンラインショップを開設した。これらのレストラン、スーパーマーケットを自社で運営するほか、微信食品公司は微信パブリックアカウントの記事を発表する、マーケティングツール「百度推広」を購入する、自営のウェブサイトを開設するなどのチャネルを通じて、そのレストラン、スーパーマーケットの企業誘致・加盟政策を広く宣伝し、フランチャイズモデルによるテンセント社の「微信」、「Wechat」ブランドに対する悪意あるフリーライドにより、巨額の利益を得た。この事件の審理期間に至っては、微信食品公司は自身の権利侵害行為の範囲を一層拡大し、全国各地で商標「微信食品」を使用して物流産業パーク、オフィスビル、ホテルなどを開設し、莫大な規模の権利侵害行為を行った。
判決:
北京市集佳律師事務所が代理人を務めた、騰訊科技(深セン)有限公司による深セン市微信食品股份有限公司(以下、「微信食品公司」という)などを相手取った商標権侵害および不正競争紛争事件について、2018年12月14日、北京知識産権法院にて公開判決がなされ、法院は次のとおり判決を下した。
1.微信食品公司などが著名商標「微信およびその図案」および著名商標「Wechat」専用権を侵害する行為を直ちに中止する。
2.微信食品公司が現在の企業名の使用を直ちに中止し、10日以内に名称変更手続きを行う。
3.微信食品公司がテンセント社に経済的損失1,000万元を支払う。
典型的意義:
この事件は、知的財産権保護強化の情勢にある中、立証されている証拠では被告が権利侵害により得た利益の具体的金額を証明しにくいが、その金額が法定の賠償金額の最高額を顕著に上回ることを証明できる場合に、法院が裁量賠償を適用し、法定の最高限度額以上において賠償額を確定する典型事例である。
この事件は、北京知識産権法院が知的財産権の権利者の合法的権益を着実かつ有効に保護し、知的財産権保護を強化することで、悪意ある権利侵害者に重い代償を払わせる司法の抑止力を存分に示した。